夜中の2時、抱っこでゆらゆら。うちの子もそうでした。そんなとき必ず出てくるのが「5つのS」——アメリカの小児科医ハーヴェイ・カープ氏が広めた、赤ちゃんを泣き止ませるテクニックです。
「科学的に証明された方法」として紹介されることが多いのですが、本当のところはどうなのか。今回、元になっている研究論文をひととおり調べてみました。結論を先に言うと——「5つセットで魔法」ではなく「使える道具のメニュー」。そして一番期待できるのは、意外にも日本発の研究が支える「歩き抱っこ」でした。
そもそも「5つのS」とは
- Swaddling(おくるみで包む)
- Side/Stomach position(横向き・うつ伏せ気味に抱く ※起きている間の抱き方の話です)
- Shushing(シーッという音・ホワイトノイズ)
- Swinging(ゆらゆら・抱っこで動く)
- Sucking(おしゃぶり・吸うこと)
結論:「5つ全部やれば泣き止む」という証拠はない
5つをまとめて試した一番直接的な研究(2010年・アメリカ)では、新生児の親に5つのSをビデオで教えたグループと普通の育児指導のグループで、1日の泣き時間に差が出ませんでした。小さな研究で弱点もありますが、「セットで劇的に効く」とは言えないのが現状です。
一方で、予防接種の直後という場面では、5つのSを行うと痛みで泣く時間が短くなったという、しっかりした研究(230人)があります。つまり「数分の痛みを和らげる」効果は確認済み。ただ、それと「毎日の泣きが減る」「コリック(たそがれ泣き)が治る」は別の話です。
効果に差がある:5つのS 正直な通信簿
◎ 歩き抱っこ——一番期待できる(しかも日本の研究)
理化学研究所のチームが発見した「輸送反応」。泣いている赤ちゃんを抱っこして歩くと、座って抱っこしているだけのときと違って、数秒〜数十秒で心拍数が下がり、泣きが収まることが実験で確認されています。2022年の続報では「5分ほど歩いてから、5〜8分座って寝かしつけてから布団へ」という流れも提案されました。まだ小規模な研究なので「必ず効く」とまでは言えませんが、抱っこしてじっと立っているより、歩いてみる価値は十分あります。
ひとつ注意点。「たくさん抱っこ」は、普通の泣きを減らす効果が一つの研究で示されていますが、すでにコリックになっている赤ちゃんには、抱っこを増やしても泣き時間は減らなかったという研究もあります。「泣きの予防」と「コリックの治療」は別物です。
○ おくるみ——「泣き」より「眠り」に効く
おくるみで包むと、ビクッとするモロー反射が減り、途中で目が覚めにくくなることが計測で確認されています。ただし「泣く量が大きく減る」証拠は弱め。そして安全ルールが大事です:
- 寝かせるときは必ずあおむけ(おくるみ+うつ伏せは危険度が大きく上がります)
- 寝返りしそうになったら卒業(目安は生後3〜4か月、それより早いことも)
- 脚は自由に動かせるように(股関節のため、下半身はゆるく)
○ ホワイトノイズ——短時間なら有望、音量に注意
有名な研究では、生後間もない赤ちゃんの8割がホワイトノイズで5分以内に眠りました(何もしないと25%)。ただしこれは40人だけの古い研究。そして市販のノイズマシンを調べた研究では、最大音量だと赤ちゃんの耳に悪影響が出かねない大きさ(85デシベル超)の製品もありました。使うなら「できるだけ小さい音で、赤ちゃんから離して、つけっぱなしにしない」が鉄則です。
おくるみとホワイトノイズの使い方と“やめどき”は、別の記事でくわしく書きました。
△ おしゃぶり——注射の痛みには効く。日常の泣きは変わらない
吸うことは、採血や注射のときの痛みを和らげる効果がしっかり確認されています。ところが、281組の親子でおしゃぶりの使用量を変えた研究では、1日の泣き時間は変わりませんでした。母乳育児の場合は、授乳が軌道に乗ってから使い始めるのがおすすめとされています。
? 横向き・うつ伏せ抱き——単独の証拠はほぼなし。寝かせるのは絶対あおむけ
5つの中で一番証拠が薄いのがこれ。「横向きに抱くこと自体」の効果を調べた研究はほとんどありません。そして絶対に混同してはいけないのが、横向き・うつ伏せの「寝かせ方」は乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクを上げるということ。こども家庭庁もアメリカ小児科学会も「1歳まではあおむけ寝」で一致しています。横向き抱きはあくまで「起きている赤ちゃんを、大人が支えて抱くときだけ」の話です。
泣き止まなくても、あなたのせいじゃない
8,690人の赤ちゃんのデータをまとめた研究によると、生後6週ごろの赤ちゃんは平均して1日約2時間泣きます。個人差はとても大きく、3〜4か月ごろに自然と減っていきます。つまり、何をしても泣き止まない時間があるのは発達として普通のこと。5つ全部試してダメでも、親のやり方が間違っているわけではありません。
そして一番大切なこと。イライラが限界に近づいたら、赤ちゃんを安全な場所(ベビーベッドや布団)にあおむけに置いて、少しその場を離れて大丈夫です。数分おきに様子を見に戻れば問題ありません。絶対にしてはいけないのは、強く揺さぶること。「泣き止ませなきゃ」と頑張り続けるより、離れて深呼吸するほうが、赤ちゃんにとっても安全です。
まとめ
- 5つのSは「科学的に証明された必勝法」ではなく、試す価値のある道具のメニュー
- 一番の有望株は歩き抱っこ(日本の研究が根拠)。5分歩く→座って落ち着かせる→布団へ
- おくるみとホワイトノイズは安全ルールを守って使えば選択肢になる
- コリックを「治す」方法だとは思わない
- 泣き止まない=失敗ではない。限界のときは安全に置いて離れる
参考にした資料
- McRury & Zolotor (2010) J Am Board Fam Med — 5つのSと泣き時間のランダム化比較試験
- Harrington et al. (2012) Pediatrics — 予防接種後の5つのS(230人RCT)
- Esposito et al. (2013) / Ohmura et al. (2022) Current Biology — 理研「輸送反応」研究
- Hunziker & Barr (1986) / Barr et al. (1991) Pediatrics — 抱っこと泣き時間のRCT
- Wolke et al. (2017) J Pediatrics — 8,690人の泣き時間メタ分析
- Hugh et al. (2014) Pediatrics — ノイズマシンの音量測定
- Pease et al. (2016) Pediatrics — おくるみと睡眠時の姿勢のリスク分析
- こども家庭庁 — SIDSについて — あおむけ寝などSIDS予防の指針
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※この記事は研究論文をもとにした情報の紹介で、医療のアドバイスではありません。発熱・嘔吐・ぐったりしているなど、いつもと違う泣き方のときは小児科に相談してください。



